カットノベルアワードSEASON1結果発表 総評


2012/12/09 upload
Dogra Magra
ドグラ・マグラ
Yumeno Kyusaku
夢野久作
動画制作者:阿部英太郎

2012/12/09 upload
Takinoarumura
滝のある村
Makino Shin'ichi
牧野信一
動画制作者:新立翔

2012/12/09 upload
Ningenrecord
人間レコード
Yumeno Kyusaku
夢野久作
動画制作者 : 森哲也

カットノベルアワードシーズン1授賞式の模様はこちら

※英語字幕については現在制作中です。完成次第の公開となります。

■選考経過--

 告知も短くて果たしてどのくらい集まるのかと心配したら、50本も集まった。よくぞ短期間にこれだけの作品が集まったものだと思うし、応募作を見てレベルの高さに嬉しくなった。しかも劇映画風、イメージフィルム風、コマーシャル・フィルム風、コント風、アニメーションほか多数の方法意識に貫かれているのも楽しく、飽きがこなかった。 いろいろ愛着を覚える作品もあったけれど、とりあえず、50本のうちから以下の14本を一次通過作品とした。

 この14本から最終候補6本に絞り込むために、以下の作品を落とすことにした。
 まず、菅作品はもっとも作家性を感じさせるけれど作品の紹介と魅力追求に乏しいし、玉乃作品は雰囲気はあるもののムードに酔いすぎている。芥川文学を題材にした武田作品は映像とテンポが優れているが作品の本質を伝えていないし、iai作品はイメージ・フィルム的すぎるし、RSP作品は映像と音楽も悪くないけれど、アニメの人物の表情がもうひとつ表現されていないのが惜しい。
 柴田作品と菅原作品はともに現代の視点から原作に切り込んで面白い。前者は原作の苦悩を笑いにかえる紹介が功を奏していて力があるし、後者は音楽と映像に傾注しPV風で悪くないけれど、いかんせん俳優の演技が素人的なのが難。銀幕屋の作品も映像は悪くないものの、役者が若すぎた。

ということで、以下の6作を最終候補にした。

 この6本、たった1分とはいえ、なかなか見応えがある。まるで劇場用映画の予告編のような新立作品、読者を本屋へと煽動させる森作品、映像と音楽ともに素晴らしい水井作品、樋口一葉の世界を現代的に喚起させる吉田作品、原作がもつアナーキーさを具現化した阿部作品、実に良くストーリーの面白さを伝える川滝作品とみな印象的だ。
 あえて難を探すなら、新立作品は原作がもつ雰囲気を見事に映像化しているものの作品への愛がもうひとつ感じられないし、逆に森作品は愛が強すぎて劇画的に脚色しすぎているきらいがあり、水井作品は「土神ときつね」ではなく宮沢賢治の世界の映像化の趣で原作のストーリーがわかりづらい。スタヂオけろり作品は雰囲気に流されて作家と作品の核心を掴むまでに至っていないし、阿部作品は若干学生映画的なのは否めないし、川滝作品はいささかCM風で軽い感じがした。
 みな一長一短があって選考に迷った。カットノベルに必要とされるのは凝縮である。いかに作家と作品の勘どころを押えて未知の読者に魅力を伝え、関心を抱かせるかにかかっている。そういう観点から以下のように授賞作を決定した。
 まず、最優秀作品を阿部英太郎『ドグラ・マグラ』とする。夢野久作の『ドクラ・マグラ』は混沌とした奇書であり、要約自体困難な作品だが、阿部作品は、その原作がもつ奇怪なイメージを次々にエネルギッシュに提示して夢野文学を喚起させているからだ。何よりも夢野文学への愛に溢れていて、とんでもない奇書という原作のイメージを確実に掴んでいる。
 次に優秀作は、新立翔『滝のある村』としたい。堅牢な映像が鮮やかであり、驚くのは1分の映像に多くのエキストラとスタッフをつぎこんで見事なアンサンブルを示していることだ。
 三番目の佳作は迷った。面白さで『人間レコード』、映像の魅力で『土神ときつね』となり、どちらにするか本当に迷ったのだが、森哲也『人間レコード』を佳作としたい。夢野久作を二本並べることにもためらいがあるのだが、このダイナミックな迫力はたいしたものだろう。でも、『土神ときつね』も実は捨てがたく、できれば、宮沢賢治記念館のロビーで流してほしいものだ。そのくらいの密度がある。この作者は才能があるので(いやほかのみなさんもそう)、ぜひとも来年も挑戦してほしいと思う。

--選考委員・池上冬樹(文芸評論家)

池上冬樹 プロフィール

池上冬樹 氏

文芸評論家。1955年山形市生まれ。立教大学日本文学科卒。
「週刊文春」「小説すばる」ほか各紙誌で活躍中。
2004年から三年間朝日新聞の書評委員をつとめる。
著書に『ヒーローたちの荒野』、訳書にリチャード・スターク『悪党パーカー/怒りの追跡』、
編著に『ミステリ・ベスト201日本篇』、
共著に『ミステリ・ベスト201』『よりぬき読書相談室』(本の雑誌編集部編)ほか多数。
日経小説大賞ほか文学賞の予選委員・下読みを数多くこなしている。



カットノベル事務局からのお知らせ

この度は、CUTNOVELアワード・シーズン1にご応募をいただきました皆さま及び当サイトをご覧いただいている皆さまへ心より御礼申し上げます。
予想以上にクオリティーの高い作品の数々に事務局一同大変驚くとともに、このようなすばらしいクリエーターの方々と出会えた喜びを噛みしめている次第です。
12月9日(日)に一度アワードの審査結果を発表させていただきましたが、候補にあがった作品が残念ながら規約に抵触している可能性があるということで再審査を行うこととなりました。
審査結果をお待ちになられていた皆さまへは、お待たせいたしましたことをお詫び申し上げますと共に、今後はこのようなことがないようにアワード・シーズン2以降の運営を行っていくことをお約束申し上げます。
それでは皆さま、新しい映像体験「カットノベル」の世界を存分にお楽しみください。 

--2012.12.12 カットノベル事務局

 

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